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3つの単語 短い話

福岡前夜

もはやあなたに会うことしか考えられなくなっているここ数日、僕は、何事にも集中できないまま、夕暮れ、ぎりぎりまで照明をつけないでいる遊びを通して早まる気持ちを抑え込もうと、必死になっている。明日、600キロの距離をわずか一時間半で飛び越えていく。例えば別の時代、歩くしかなかった時代、あなたと出会っていたのならば僕はどのようにしてそれを受け止めていただろう。あるいは今と違う結果になっていたのかもしれない。その仮定に意味があろうがなかろうが、この時代に生まれてよかったのだと、僕が鏡のないレンズを通じてあなたを写し出したデータの集積を眺めながら、考える。あなたが笑うのと同じように、僕は笑う。それは他者の心を読み取る、その原則的不可能性を飛び越えた。あなたが、飛び越えさせた。想像力という、僕が唯一持っている武器があなたの感情の殻を切り開いた結果がそれなのだとしたら、僕は朝方に涙を流す、そのことをいとわない。第一声について考える。あなたが住んでいる地域の最も大きな駅で、あなたの顔を見て僕はうまく声をだすことができるだろうか。あなたが手を振る。僕も笑って振り返す。笑っているが、少し泣きそうでもある。あなたはいつものように、まず、僕の肩に手を置くだろう。僕もあなたの肩に触れる。華奢な肩に体温を感じる。「お腹すいとうと?」あなたが尋ねる。「うん、けっこうすいてる」僕は答える。帰宅ラッシュの大きな駅、一週間を始めたばかりの人たちは、少し憂鬱そうな顔で歩いている。その中で僕たちは場違いな笑顔で、歩き始める。僕は手をつなぐタイミングをはかっている。それよりも先に、あなたが指を絡ませる。いつだってあなたが先だった。僕は曖昧に笑いながら、ごめん、いつも、と胸の内でつぶやくことしかできない。夜が更けていく。あなたに会える月曜日のことを、僕はそのように思い浮かべる。今日も眠りにつく。明日を待ちわびている僕が、いつもより少しだけ、早い時間に。