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3つの単語 短い話

ブーメラン 渓谷 マクドナルド

 君が河川敷で投げたブーメランは3年後に戻ってきた。金持ちの叔父さんがオーストラリアで買ってきた、アボリジニのブーメラン。僕もそばで見ていた。君が思い切り投げると、ブーメランはぐんぐん速度を上げて、でもいつまでも曲がる気配がなくてそのままどんどん高度を上げて、空を飛ぶ鳥よりも高く、いつの間にか雲の隙間に隠れて見えなくなった。僕たちは不思議に思ったけど、特にそれ以上深くは追及しなかった。ブーメランはそのまま速度を上げ続けて、やがて光の速さを超えた。ブーメランは物質から現象へと変質した。アボリジニ作、カンガルーの彫られたブーメランは大気圏を通過する際に燃え尽きた。しかしブーメランがブーメランであることを止めなかったのは、それが持ち主のもとへ戻ることを存在意義の根幹としていたからだった。燃え尽きたブーメランは物質としてではなく観念として、宇宙空間で大きな弧を描いた。それは惑星ソラリスの軌道と一時重なり合い、衝突の危険性があったがすんでのところで回避された。ブーメランは冥王星の重力圏に最接近したあと、地球に戻るため引き返し始めた。速度はどんどん上がっていき、火星と木星の間をわずか1秒間で通過していった。3年後、君は物質としてではなく思想としてのブーメランを受け取った。3年前に河川敷で投げたことなどすっかり忘れていた君は、突如として形のない、思想としてのブーメランを受け取って心底驚いただろう。君は結局のところ、3年前に死んだも同然だった。あんな硬くて重いブーメランなんて投げるべきじゃなかったんだ。それは誰をも傷つけなかった。しかし思わぬ形で君自身を変えることになった。君はこの平和な国で、自然豊かな渓谷で、牧歌的な羊飼いとして一生を終えることになるはずだった。ブーメランが戻ってくる前は。あれから、君は変わってしまった。婚約者を捨て、羊たちを皆殺しにし、納屋を燃やし、政府に宣戦布告した。形なきブーメランが君の胸に刺さった。君は色のない血を流した。心ない罵声を浴びせられても、君は活動を止めなかった。昨日の夜、君が政府軍に拘束されたとの一報が舞い込んできた。政府軍がいかに血も涙もない連中であるかということは、この国の歴史が証明している。歴史は地続きとなって、現代から未来へと暗い影を落としていた。急がねば、君は政府軍の惨たらしい拷問によって殺されてしまう。僕は君を助けに行く。たった1人で。作戦は? ない。武器は? ある。20年前、マクドナルドのハッピーセット、おまけでついてきたグリマスのおもちゃで僕は戦うつもりだ。紫色で気味が悪いグリマス、しかしこれは物質としての武器だ。僕は誰の血も見たくない。でも戦いに武器は必要だ。だからマクドナルドのハッピーセット。理に適っている。君も賛同してくれるはずだ。無事助け出すことができたなら、僕たちは2人でマクドナルドに行く。今となってはもう、ドナルドも、グリマスも、ハンバーグラーも、いない。僕たちは1つのポテトを2人で分け合いながら、思い出話に花を咲かせる。待っていてくれ、もう少しで行くから。ブーメランは、僕の胸にも刺さっていたのだから。