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3つの単語 短い話

犯罪 軍隊 マジシャン

 この国に犯罪は存在しない。もちろん罪を犯す者はいる。人間に対する無誤謬を頑なに信じているのは無知で無能な運動家だけである。人間は自ずから過ちを内包している。まず、そこから始めなければ国家の統治など夢のまた夢だ。1つ例をあげよう。私が今まで粛清してきた延べ3万3,000人の民衆に、私は謝罪するべきか? 答えはノーだ。私は国家統治の大義のもとに、多くの罪のない人々を殺めてきた。同じ者を2度殺したこともある。彼らは一度殺した後、新たなる時代に、新たなる人格を伴って蘇った。私はそれを見逃さなかった。だから再び殺したのだ。今、この演説を聴いている国民及びジャーナリスト、革命家、時間旅行者、けもの、現代彫刻、ピエロ、足のない幽霊、生まれる前の受精卵、孤独死した老人、神、四つ目の一角獣、それら全ての者たちを私は2度殺すだろう。しかしながらこれは犯罪ではない。すなわち、逆に、あなた方が私を殺そうとしても、それもまた犯罪にはならないのである。他国なら反逆罪で捕らえられるはずの行為も、我が国では罪にすらならず、むしろそれが積極的に奨励されていることは先日公布された政令をお読みになればわかるはずだ。そして本日、私は議会の承認を得てある一連の法改正を行おうと考えている。それは、自国内で保持する軍隊を二分させ、紛争を起こし、勝利した部隊を総動員して他国へ攻め入り、世界戦争を起こすことを目的とした法規定になるだろう。これは国際法上の違法行為であるが、それ以前に我が国の最高規範である憲法の第1958条第1項においてこのように定められているのを見逃してはならない。読み上げてみよう。「国民は暴力と憎悪を基調とする世界戦争を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、世界規模の破滅を惹起させる手段として、永久にこれを求め続けなければならない」そして第2項には、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持する。国の交戦権は、これを認める」と掲げられているとおり、我が国はそもそものはじめから暴力国家として成立していることがわかる。そして我が国の領土においては、国際法及びあらゆる倫理規範よりもこの憲法の条文が上位に位置し、機能するのだということを我々は忘れてはならないのである。明日、これらに関する一連の改正法である「我が国及び国際社会の壊滅及び殲滅の推進に資するための暴力軍隊法の一部を改正する法律及び国際紛争に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する積極的侵略及び殺戮に関する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する政令」が公布、施行される。これで私たちは戦争を行なうことが可能となる。繰り返すが、これは議会の承認を得、正規の手続きを経て行なわれるものである。私は独裁者ではない。民主的な選挙によって選ばれた議員による、これはれっきとした議会制民主主義の帰結である。この国に犯罪は存在しない。マジシャンが観客からコインを借りて、マジックでそれを消してしまう。もしコインを「本当に」消してしまったのなら、それは犯罪になる。しかしマジックにはタネがある。コインはマジシャンの袖の中に隠されている。だから、犯罪にならない。聴衆の皆様方においては、これらの政府方針にご理解ご協力の上、粛々と国民としての義務を果たしてほしいと考える次第である。以上、私の演説を終了する。