ランダムワードライティング

3つの単語 短い話

カムフラージュ 雨乞い 高速道路

 デンマーク製の陶磁器を扱う食器専門店に、昨夜、覆面をした3人組の男が不法侵入した。男らは店舗に陳列されている食器をすべて、1つ残らず破壊した。床に叩きつけ、壁に放り投げ、あらゆる方法を用いて食器は割られた。青と白の食器が粉々に粉砕され、次々に積み重なった。レジの現金は無事だった。男らは犯行後、カムフラージュのために店の窓ガラスをすべて黒いスプレーで塗りつぶした。3人組のうちの1人、コンゴ民主共和国出身のミランドゥ・マラランダは、息を切らし、逃走しながら、祖国に思いを馳せた。祖国に残した14人の家族(父と母、祖父に曾祖母、弟が3人に妹が5人、若くして結婚した妹の旦那とその間にできた子どもが1人。祖父は有名な祈祷師で、村の重要事項はすべて彼の祈祷によって決定された。病人が出れば黒魔術を使い治療し、乾季が長く続けば不眠不休で雨乞いをした。彼が祖国を出、この国に出稼ぎにやってきたのも、祈祷師である祖父の言いつけによるものだった。)の生活はミランドゥ・マラランダにかかっていた。彼がこの豊かな国で賃金を稼いで祖国に送ってやらなければ、彼らはすぐに飢え死んでしまう。来日当初、仕事は順調だった。港でコンテナから積荷を下ろす、ただそれだけの仕事だったが給料は悪くなかった。もともと体が大きく丈夫だったミランドゥ・マラランダにとっては、天職と言ってもいいほどだ。しかしそのような順風満帆な生活も長くは続かなかった。同僚の1人がコカインに手を出した。四六時中ラリっていたその同僚が、仕事中に暴力沙汰を起こした。仲裁に入ったミランドゥ・マラランダがケンカ相手に突き飛ばされたその時、ちょうどクレーンから降ろされたコンテナに挟まれ、彼は右腕を失った。男らは夜の闇に紛れて逃走を続けた。高速道路の高架下で、男らはホームレスの住居の陰に滑り込み、身を隠した。右腕を失い、職も失ったミランドゥ・マラランダはコカイン中毒の同僚とともに強盗を始めた。はじめのうち、それは金を盗むことを目的としていた。ところが時を経るにつれ、徐々に金銭を得ることよりも、強盗という行為そのものに含まれる強い暴力性に惹かれていった。彼らは住居や店舗に侵入し、破壊の限りを尽くした。ここ2週間ほど、祖国に送金ができていない。いずれミランドゥ・マラランダの家族は飢え死ぬことになるだろう。男らは再び走り始めた。雨が降り始めていた。遥か数千キロ離れた赤土の祖国から、祖父が降らせたものに違いなかった。ミランドゥ・マラランダは存在しない右腕を一心不乱に振りながら、パトカーのサイレンが近付いてくるのをどこか他人事のようにぼんやりと聞いていた。