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3つの単語 短い話

虫刺され ネクタイ 特等席

 鬱蒼と生い茂る密林を掻き分けていった。いくら進んでも、出口らしきものは見つからない。両腕には夥しい数の虫刺されの跡があった。首筋にまとわりついてくる羽虫を手で払いながら、ロメロ・イ・ガルダメスは自らの運命を呪った。腕時計は午前8時20分を示している。ロメロ・イ・ガルダメスは先ほどまで1986年型スバル・ジャスティの運転席にいたはずだった。通勤のため、サンホセの市街地にある目抜き通りで信号待ちをしていたのだ。しかし彼はそこで1つの過ちを犯した。快晴だった。雲ひとつない、最高の青空だった。信号はまだ変わらない。クラクションが鳴った。それはあっという間に連鎖して通りを騒音で埋め尽くした。ロメロ・イ・ガルダメスはため息を吐きながら、職場での仕事について考えた。彼は上級の役人だった。その日は中米統合機構に関するフォーラムの打ち合わせで、ニカラグアの大統領補佐官と面会する予定があった。だから慣れないネクタイをしていた。彼は苛立ちながら結び目を何度も直した。ロメロ・イ・ガルダメスが世界の誤謬に気付いたのはその時だった。雲一つない青い空に、一本の亀裂が入った。ロメロ・イ・ガルダメスははじめ、それを飛行機雲だと思った。ところが亀裂は飛行機雲より何倍も速いスピードで東から西へと伸び続け、やがてその巨大な裂け目から、青空が破れた。「空が服を脱ぐぞ!」ロメロ・イ・ガルダメスは詩的な感想を抱いた。開かれた青空のジッパーに気を取られている間に、信号が変わった。後方からクラクションを鳴らされて、ロメロ・イ・ガルダメスは我に帰り、自動車を急発進させた。先ほど言及した彼の過ちとは、すなわち、アクセルを踏み込みすぎたことにあった。あまりにも急発進だったものだから、青空の裂け目に入り込んでしまったのだ。もう少し慎重に運転していれば、こんなことは起きなかった。彼には気の毒だが、裂け目に落ちたが最後、もう戻ることはできない。車は裂け目の内部を進んだ。中は真っ暗だった。ヘッドライトを点けても先が見渡せない。ロメロ・イ・ガルダメスは仕方なく停車し、車から降りた。地面があるのかないのか、よくわからなかった。振り返ると車は消えていた。急に体が軽くなって、重力が消失した。すると彼の体は椰子の実に包まれて、急降下し、地面に激突した。ぱっくりと割れた椰子の実の中から出ると、そこはジャングルだった。鬱蒼と生い茂る密林を掻き分けていった。いくら進んでも、出口らしきものは見つからない。しばらく進むと、頭上から巨大なホエザルが降りてきて、ロメロ・イ・ガルダメスの脇腹を殴った。彼は意識を失った。すぐに12匹のホエザルが集まってきて、彼をホエザルの王国へと運んでいった。ホエザルたちは、彼をホエザルの王国の新しい国王に指名するつもりだった。宮殿の最も奥深く、王の間にロメロ・イ・ガルダメスは運ばれた。「王様、ここがあなたの特等席です」1匹のホエザルが、ホエザル特有の音声言語で言った。豪奢な肘掛け椅子はピューマの骨でできていた。ロメロ・イ・ガルダメスは目を覚まさなかった。1匹のホエザルが石器のナイフを取り出して、ロメロ・イ・ガルダメスの背中を割いた。彼の背はジッパーのように開いた。背を割いたホエザルが、ロメロ・イ・ガルダメスの内部に入り込み、彼の皮をかぶった。そうして、ロメロ・イ・ガルダメスはホエザル王国の国王に即位した。