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ランダムワードライティング

3つの単語 短い話

電池 想像妊娠 針

 電池の切れたゲーム機が沈黙して、部屋は正真正銘の暗闇に満たされた。私はいよいよため息を吐いて、これからの行く末について頭を巡らせた。それはこの夜のことであり、明日の夜のことであり、そして10年後の夜のことでもあった。すぐに指先が冷え始めた。寝室から毛布を引っ張り出してきて、それにくるまった。あなたの匂いがまだ残っていた。とても濃い匂いだった。そしてそれは、少なくない憎しみを想起させる匂いでもあった。本当は、憎しみを抱くべきはあなたの方だった。でも私がそう感じてしまうのは、あなたよりも私の方がずっと、未熟で、身勝手で、わがままだからだ。情けなさでいっぱいになった涙を、毛布に染み込ませた。あなたの匂いが少しだけ強くなった。私は居てもたっても居られなくなって、部屋から飛び出した。外は雪だった。素足のまま、積もり始めた雪をその街の誰よりも早く踏みしめた。走り続けるうちに胃の辺りがムカムカとしてきた。私は立ち止まり電信柱の陰で酔っぱらいのように吐いた。レズビアンが想像妊娠するなんて、馬鹿げている。あなたはそう言ってからかった。でも私は本気だった。あなたとの子どもがほしかったのだ。私の鼻は低くて醜いけれど、あなたのすらりとした鼻筋が遺伝すればきっと顔立ちのいい子どもが生まれると思った。生き物の体には時に常識では計り知れない、奇怪な現象が起こる。事故で腕を切断した人は存在しない指先が痒くなる。母猫は死んだ子猫のために母乳を出し続ける。レズビアンは恋人を想って想像妊娠する。でもそれは美談になどならなかった。生命の神秘なんかじゃなかった。これはつまり、グロテスクな悪あがきでしかないのだ。吐瀉物から湯気が立っていた。それは細胞分裂に失敗した私の子どもだった。未発達のまま生まれて、死んだ。しかしまだ温かかった。当たり前だ、さっきまで生きていたのだから。私はしゃがみこんで、生ぬるい吐瀉物を手で掬った。寒さで全身が震えた。足の裏は冷たさで針を刺したように痛んだ。だがそれもこれも、奇形のまま生まれることの叶わなかったこの醜い胎児の辿った運命に比べれば、どうということはなかった。「産んであげられなくて、ごめんね」手のひらに雪は降り積もった。まだ性別すらわからない彼/彼女の体温が失われるまで、私はその場所に1人座り込んでいた。