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ランダムワードライティング

3つの単語 短い話

英才教育 時計 キャンディ

間違いなくトニーは英才教育を受けたはずだった。それにもかかわらず、彼が彼女の舌を切り取って警察に捕まり牢屋に入れられたことを母親はいたく悲しんだ。そのように育てたつもりはない、と母親は面会室で叫んだ。取り乱す母親を見て、トニーは微笑んだ。…

マム、パパ、

不快、近い 鬱陶しいな 君の距離 眼鏡の上の 極小の蜘蛛 ロラン・バルト『喪の日記』。最愛の母アンリエットの死に際し、バルトが書き記した喪の作業について。僕は否応なくそれを自分の父に重ね合わせる。父はまだ死んでいない。しかしそれは近い将来の出来…

シマウマ柄のシャワーカーテン

日曜日 夜、耳にした 声、ラジオ けっきょく今も わからないまま 変わらないことのよさみたいなものが重要視される風潮の中にあって、あえて変わっていくことの美しさについて思いを巡らせてみると、常に変わっていくこと、カラフルに、柔らかく、脱皮を繰り…

人の記憶から漏れてしまった景色の集積

ドライヤー お皿洗いの 最中に 聞き取れなかった あなたの言葉 ceroのVocalである髙城晶平さんは新曲『街の報せ』のミュージックビデオについて、Twitterで以下のようにコメントした。 今日ビデオくんと飲んで、街の報せのMVの話になったんだけど、これは人…

57577

さっき雷すごかった。雨雲は通り過ぎた。 君からの 電話で起きる 澄んだ声 さっき雷 すごかったよね 57577。 短歌というのはつまり音のダンスだ。ビートだ。しかし居合いでもある。セックスでもあるし、デモでもある。 デモでもさ ビートでもいい 君だ…

ブーメラン 渓谷 マクドナルド

君が河川敷で投げたブーメランは3年後に戻ってきた。金持ちの叔父さんがオーストラリアで買ってきた、アボリジニのブーメラン。僕もそばで見ていた。君が思い切り投げると、ブーメランはぐんぐん速度を上げて、でもいつまでも曲がる気配がなくてそのままど…

天気予報 主語 コップ

天気予報が大雪を報じていた。その日の朝に彼は生まれた。彼は大声で泣いた。赤ん坊は泣くのが務めであると彼の祖母は大いに喜んだ。彼はいつまで経っても目を開けなかった。彼は生まれつき目が見えなかった。そのことで何か苦労したかといえば、周囲の人間…

坂口恭平がドゥルーズになった。かつて俺はニーチェだった。

坂口恭平がドゥルーズになった。かつて俺はニーチェだった。これはかつてニーチェだった俺による、ツァラトゥストラ・エピソード・ゼロだ。体内が66%の水分で満たされていく間、山から下りて没落する以前のツァラトゥストラはこう言った。「まだ私はこの…

犯罪 軍隊 マジシャン

この国に犯罪は存在しない。もちろん罪を犯す者はいる。人間に対する無誤謬を頑なに信じているのは無知で無能な運動家だけである。人間は自ずから過ちを内包している。まず、そこから始めなければ国家の統治など夢のまた夢だ。1つ例をあげよう。私が今まで…

セレモニー 円周率 オーロラ

セレモニーの招待状が届き、明くる日、私は正装で会場へと向かった。セレモニーは都心にある高層ビルの大ホールで行なわれる予定だった。人身事故によって電車が遅れ、私は開始時間ぎりぎりに到着した。受付には同じ顔をした女が2人座っていて、同じ動作を…

高層マンション 殺し屋 冬眠

ナミブ砂漠の荒野に突如として高層マンションが建ったのは8月の夕暮れ時で、世界中から入居者が殺到するのにそれほど時間はかからなかった。1250室ある部屋は2週間のうちに完売し、マンションの前には引越し業者の巨大なトラックがひっきりなしに停ま…

一軒家 ロンドン 釣り

一軒家のだだっ広いリビングに座って、自らの生きてきた85年もの歳月を始めから終わりまで思い出しているとちょうど1日が終わった。革張りのソファは年代物、私と同じように年を取り、こわばってしまった。まるで私の皮膚そのもののように。これが私の棺…

サングラス 埋め合わせ 水族館

すれ違った野良犬がサングラスをかけていたような気がして、そんな馬鹿な。後ろ姿はパープルやライムグリーンをあしらった派手なマダムで。紐でつながれた犬はダックスフンドか? 「クリムトの描く女の乾いた髪の毛」はわざわざ道を戻って散歩する者たちを見…

地下鉄 オーガニック 魔術

地下鉄の改札を抜けてホームに降り、電車を待った。私は鞄からホセ・ドノソの『夜のみだらな鳥』を取り出し、ページを捲った。やがて電車がやってきた。風が吹いて、ぱらぱらと幻想的な叙述がはためいた。ドアが開いた。私は乗り込んだ。そこで初めて、ホー…

映画監督 声変わり 侵入者

映画監督の化石が発見された。過去にいくつもの賞を取った著名な監督であることがDNA鑑定で明らかになった。世間は大騒ぎになったが、それはあくまでも化石としての価値が認められたというだけだった。化石となった映画監督がどのような映画を撮影したのか、…

原産地 仲直り クジラ

コーヒー豆を買う時、あなたはいつも原産地がどこであるかを気にして、グアテマラ産のもので、かつ、標高の高い場所のものしか買わない妙なこだわりのあるところ、はじめのうちはある意味かわいいとも思えたのだけれど、だんだんと付き合いが長くなるにつれ…

柑橘系 紙一重 ローストチキン

夏になると柑橘系の果汁を凍らせて、それを冷やした赤ワインに入れて飲むんです。季節のフルーツ、例えばサクランボだとかマンゴーだとかスイカだとか、そういうものを入れると見た目も可愛くてオシャレだし、自分の家で簡単にできるので毎日のように作って…

美術館 ポップコーン 薄化粧

内戦中、美術館は仮設の病院兼宿泊所として使われた。傷ついた人々は壁に掛けられた抽象画に囲まれながら治療を受け、夜になると荘厳な近代彫刻の下で眠りについた。真っ白な壁と、高すぎる天井。非政府組織から派遣されてきた医者が、小さな少年の胸に聴診…

カムフラージュ 雨乞い 高速道路

デンマーク製の陶磁器を扱う食器専門店に、昨夜、覆面をした3人組の男が不法侵入した。男らは店舗に陳列されている食器をすべて、1つ残らず破壊した。床に叩きつけ、壁に放り投げ、あらゆる方法を用いて食器は割られた。青と白の食器が粉々に粉砕され、次…

時刻表 電波 セントバーナード

バス停でバスを待つ間、ふと時刻表に目をやると行き先が1つ増えていた。カンタベリー大学経由、クライストチャーチ国際空港行き、それがこのバス路線の唯一の行き先であるはずだった。僕は待合のベンチから立ち上がって、時刻表に近付いた。新たなる目的地…

辞書 テント 冷蔵庫

びりびり、ぽい。びりびり、ぽい。川上から川下へと流れていく破られたページを、私はただぼうっと眺めていた。辞書の薄い紙は驚くほど簡単に破れた。川の水に浸すと薄い紙は半透明になって、光り輝く水面の下で文字列が波を打った。「慟哭」を含んだページ…

アルミニウム 横顔 矛盾

校庭のど真ん中に、直径8メートルの巨大な鉄球が現れた。前日まではそんなものなかった。今朝になって、唐突に姿を現したのだ。登校すると学校中が騒然となっていた。皆が珍しがって鉄の球に群がり、周囲を走り回ったり恐る恐る手で触れたりしていた。すぐ…

セロテープ タトゥー 酸素

セロテープと厚紙でロボットを作る。夏休みの宿題だ。ダンは一刻も早く制作に取り掛かるため、大急ぎで家に帰った。母親のモニカは台所で昼食を作っている最中だった。ダンは息を弾ませながら玄関のドアを開け、モニカの大きな臀部に飛びついた。「最強のロ…

虫刺され ネクタイ 特等席

鬱蒼と生い茂る密林を掻き分けていった。いくら進んでも、出口らしきものは見つからない。両腕には夥しい数の虫刺されの跡があった。首筋にまとわりついてくる羽虫を手で払いながら、ロメロ・イ・ガルダメスは自らの運命を呪った。腕時計は午前8時20分を…

2番目 粗大ゴミ 子守唄

ガラスケースの向こうには工芸品のように美しいケーキが並んでいた。僕は左から2番目にあったいちじくのタルトを2つ注文した。店員が微笑んだ。僕が誰のためにケーキを買うのか、彼女は了解していた。だから笑うのだ。僕は顔が真っ赤になった。「うまくい…

黒髪 ペットボトル カウントダウン

切り刻まれた黒髪が床一面に敷き詰められた部屋で、君はダンスを踊った。真っ黒な絨毯の上で、君の靭やかな生白い手足がおぞましいほど際立っている。僕が部屋に入ると君は踊るのを止めた。ふわふわとした黒髪の束の上で、君はふいに足を滑らせた。僕は慌て…

電池 想像妊娠 針

電池の切れたゲーム機が沈黙して、部屋は正真正銘の暗闇に満たされた。私はいよいよため息を吐いて、これからの行く末について頭を巡らせた。それはこの夜のことであり、明日の夜のことであり、そして10年後の夜のことでもあった。すぐに指先が冷え始めた…

同情 エレベーター 二択

「もう少し同情してくれてもいいんじゃないか」ヤマアラシは背中の針を逆立てながら文句を言った。僕はその針に指先で触れた。血が流れた。膨れ上がる血溜まりが星々を反射して、僕はあまりの眩しさに目がくらんだ。昨日、ヤマアラシの最愛の妹が死んだ。彼…

人形 消毒 視線

もしかしたら俺は人形なのかもしれない。そう思い始めたのは1週間ほど前のことだった。これといった確証はない。しかし日に日にその気持ちは強まってきていた。なんてことはない子供時代を過ごして、進学し、就職した。恋人がいた時期もあった。多くはない…